【東北ゆかりのブックレビュー】芥川賞受賞作『荒地の家族』~2011年3月11日に体験した“災厄”を後世に伝える

こんにちは!東北・宮城在住ライターのすずき・ちえです。

先日、仙台市出身・在住の作家、佐藤厚志さんが第168回芥川賞を受賞しました。受賞作の『荒地の家族』は、2011年の東日本大震災がテーマとなっています。

私自身が佐藤さんと同世代で、同じ仙台市民であることや東日本大震災も経験したという共通点から、どのようなストーリーなのか興味をひかれ、読んでみました。

あらすじ

◆Amazonより

『荒地の家族』は、宮城県南部の海沿いの町・亘理町(わたりちょう)が舞台となっています。東日本大震災後の大津波では甚大な被害を被った場所です。

亘理町で生まれ育ち、震災後も生活する主人公・坂井祐治の震災後から現在までの生き様が描かれています。

祐治は現在40才。ひとり親方として造園業を営んでいます。家族は小学6年生の息子・啓太と母の和子。震災当時は、借金をし独立して間もない頃でしたが、津波で商売道具の入った倉庫と2トントラックをさらわれ、経済的に窮地に立たされます。

さらに不幸は続き、震災2年後には、当時3才だった啓太を残して妻の晴海が病気で亡くなりました。それから再婚した知加子との間の子も産まれる前に亡くなり、知加子も家を出て行ってしまいます。

まるで映像を見ているかのような描写

祐治の視点で、現在と過去を行き来しながら物語は進みます。祐治の周囲の人たちを含め、もがき苦しみながら震災後を生き抜く姿が浮かび上がってくるようでした。まるで映画のように。

作者による主人公の心情の丁寧な表現、そして震災発生時や10年後の現在の風景の描写がそう思わせるのかもしれません。

例えば震災発生時の情景は次のように描かれています。

あの時、底が抜けたように大地が上下左右に轟音を立てて動き、海が膨張して景色が一変した。

佐藤厚志『荒地の家族』より

私自身、思わず10年以上前の震災の記憶が蘇ってきました。

そして、祐治が苦しみは口に出さずに自分を責め続ける様を見て、震災後に「東北の人は苦しくても口に出さない」とメディアでコメンテーターの言葉に思わず頷いたことを思い出しました。そのような東北人の気質が表れているのも見どころです。

そして、文中では「震災」という書き方を避け、「災厄」と表現しており、被災した地域や人たちに寄りそった作者の気遣いを感じました。

震災を後世に伝えるアーカイブにも

東日本大震災は発生から10年以上が経ちました。近年は、復興によって作られた新しい町を目にすることや、震災を知らない世代が増えてきたことから、風化を肌で感じることが増えたように思います。

震災を経験した自分自身の記憶ですら、年々薄れていっています。

『荒地の家族』は、小説でありながらも、震災を後世に伝えるアーカイブのような一面も感じられます。寡黙で典型的な東北人ともいえる主人公と周囲の人たちの心の奥底にあるもの、データにはあらわれない失ったものの大きさ、改めて震災を思い返しました。当時を知る者として記憶をつないでいくことの大切さを実感させられました。

◆荒地の家族

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